(9746)TKC…『不撓不屈』 高杉良著 新潮文庫を読んで、背筋がゾォーとするほど久しぶりに感動しました。主人公はTKC創業者の飯塚毅さんですが、単なる経営者としては捉えきれない、哲学者・宗教家・法学者でも括れない、真理を求め・倫理に厳格・友愛に燃え、使徒のような使命感を持ち、圧倒的なこの世の不条理に抗い続けた方でした。
物語は、飯塚さんに個人的な妬みを持った大蔵官僚による、国税庁・検察庁など国家権力による冤罪事件に対して、決して怯むことなく壮絶な格闘を綴ったものです。高杉さんの会心の作です。
以下に私が関心を持ったところを記します。
●戦後においても、昔の特高警察のような人権無視の捜査が行われていた、また現にこのようなことが行われる可能性があるかもしれないということ。税務署・検察などが、その権威を背にして強引な捜査を行い、またマスコミなどにリークして世論操作なども行えば、どんなに無実な人でも簡単に犯罪者に仕立てられて、社会から抹殺されてしまう。どんなにすばらしい民主主義の制度を持っていても、国民が無関心で、マスコミが機能せず、官僚・政治家が腐敗して、警察・検察・税務署などの人心も荒廃してしまえば、物凄く恐ろしい全体国家のような体制になってしまう恐れがある。もしかすると今現在もマスコミに世論操作されて、自由で民主主義的に思っていても、実質的には官僚・政治家合体の強力な支配下に隷属しているかもしれません。
●上記のような国家権力の横暴を防ぐために、国会議員というのは決定的に重要だということです。若き日の渡辺美智雄さんのように、議員の独自の調査による質問というのは、国家権力に対して、人権を守る上で欠かせないものです。しかし、その議員が官僚や業界と癒着したりしていたら、もう話になりません。今はどうでしょうか?政治家=議員という等式がなにか成り立たないような気もします。議員というのは、専門的知識を持ち、調査分析の上、現行法体系の不備を指摘しつつ、質問し、新たな法律を作っていくというのが任務のはずです。利権などを追い求めて、まるでブローカーのように暗躍していることは、ないと思いますが…。それにしてもこのごろ、迫力ある質問というのはあまりないような気もしますが…
●税務の法規というものは、私のように単細胞の人間には、経費はこれこれ認めるとか、帳票類はこうしろとか、何か本当に形式的なものに感じていました。しかし、そのそれぞれに法哲学的に深い意味合いがあり、どうしてそういう経費の認識をするに至ったかとか、外国ではどういう認識をしているかだとか、とても単なる形式的な規定ではないということです。そういえば税金というのは、国の財源の基となるものであり、また合理的な税負担を実現しない限り、健全な国家経営ができないということなんだと思います。税金にのー天気な自分は国民の資格なしでしょうか。
●また税理士というと、あまり私は良い印象は今までありませんでした。お金持ちのコンサルタントみたいで、節税・節税と法の穴を探して、うまくやっているという、あまり倫理感のないような感じでした(自分はお金がないので、お世話になったことがないものですから)。
しかし飯塚さんのモットーは、税金は法哲学上のギリギリの(国と国民との間の)衡平な負担をすべきであり、その負担については絶えず猛勉強して精査し直すことが大事だとのことです。
●飯塚さんが国家権力の不正と戦っていくとき、その原動力の源は何かというと、小さいときから帰依してきた禅宗の教えだったそうです。「自利とは自他をいふ」という友愛に基づいた精神。正しい倫理規範を常に追い求めた飯塚さん。禅宗の教えのように、実践倫理の尊重は、どのような経営学の理論よりも重要なことのように思えます。
(社長挨拶より)
「TKCは、「わが国の会計事務所の職域防衛と運命打開」と「地方公共団体の行政効率向上による住民福祉の増進」という極めて明確な事業目的を掲げ、1966年に創業しました。…
会計事務所の社会的使命の達成と関与先企業の健全な発展を支援するという大切な目的のもとに、理念を同じくする全国9300の会計事務所とその関与先企業57.5万社を対象にオンライン・ネットワークを構築し、高度情報サービスを提供しています。…
東日本を中心とする全国471市町村に導入され、その高い稼動評価と相まって…」
小説にも出てくる毅さんの息子さんの真玄さんが現在の社長さんです。毅さんがアメリカの会計業界の視察で、コンピューター化による金融業界の会計士業務の侵食に対して、強い危機感を持ち、「自利とは他利をいふ」の精神のもと、計算センターを中心とする会計事務所のネットワーク作りに奔走して築いてきたのが、同社です。
現在、NECや富士通も世界的な大手会計事務所と提携、又は日本法人の買収などを通じて、ソリューション事業の一つとして会計業務のIT化を強化していますが、その遥か以前にその重要性を毅さんは認識していたということでしょうか。
(配当利回り)
年間配当予定 35円
株価 2210円(3/1)
配当利回り 1.58%
(業 績)
平成17年9月期
売 上 535億円(前年比+2.9%)
経常利益 61億円(+5.9)
(部門別売上)
●会計事務所事業
売 上 373億円(前年比+4.0%)
営業利益 57億円(+10.9%)
業務内容としては以下のようです。
○TKC統合情報センター(全国9都市)によるコンピューターサービス
(1)大量出力(印刷)を伴うバッチ処理サービス
(2)データ・ストレージ・サービス
(3)ダウンロードサービス
○TKCインターネットサービスセンターによるコンピューターサービス
(1)インターネットサービス
(2)イントラネットサービス
(3)ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)サービス
(4)データベースサービス
(5)データストレージサービス
(6)ダウンロードサービス
(7)データバックアップサービス
(8)データセキュリティーサービス
○パソコンまたはクライアント・サーバに搭載するソフトウェアの開発提供
○同社の情報サービスの利用に伴うシステム機器の販売
○専門スタッフによるシステム・コンサルティングサービス
※簡単な用語解説
バッチ処理…一定期間(もしくは一定量)データを集め、まとめて一括処理を行う処理方式。
データストレージサービス…データを安全に管理していくサービス
イントラネット…社内や学校内等、限定された範囲でのコンピューター・ネットワークを接続するときに、インターネットの採算的な技術を利用することで低コストとベンダー独立性を高めようとするとりくみ、またそのようにして構築されたネットワーク
ASP…ビジネス用のアプリケーションソフトをインターネットを通じて顧客にレンタルする事業者のこと。
現在会計税務業務でのIT化・国際化が、国の政策と相まって急激に進んでいるようです。例えば、連結納税、電子申告などの採用です。そのために法改正も多くなっているようです。
また同社の会計税務業務の高い倫理性や的確さにより、金融機関が同社の会計情報をそのまま経営者ローンの審査に利用するシステムも開発されているようです。
また公開企業、公開志向企業向けに提供する会計業務システムもあるようでです。
いずれにしても、飯塚毅さんという、あの博学(とことん法哲学的に掘り下げる)で倫理性の強い性格のDNAが、同社のソフトの骨格には受け継がれていると思います。それにしても会計業務というのは、倫理性がものすごく問われるものなのだとつくづく思います。
●地方公共団体支援事業
売 上 125億円(前年比+0.5%)
営業利益 1.6億円(▲58.1%)
地方公共団体でもIT化の進行は急ピッチのようです。平成13年1月に発表された内閣府のIT戦略「e-Japan」により、次々行政のIT化の政策が出されているようです。また平成の大合併により市町村合併のためのシステム統合の需要が高まっているようです。
特に最近、介護保険関連の事務作業が急増しており、それに対応する業務ソフト導入が急がれているようです。
同社のように倫理性の高い民間企業が、何かとお役所仕事的な行政の事務を効率化するということは、まさに国民のためになるのだと思います。
(総 評)
それにしても、こういった上場企業もあるんだなぁーとつくづく思いました。公共団体と言われるところでも、ひどく倫理性が欠如した組織が多いと思われるなか、同社はまさに奇特な存在と言えると思います。衡平な会計税務処理は、民主主義の根幹の一つだと思います。
社会的責任投資 A